はじめに――「とりあえず置いておく」が一番コストが高い
親が亡くなり、実家が空き家になった。あるいは、遠方に引っ越したまま昔の家を手放せずにいる。
こうした状況は、決して珍しくありません。総務省の調査によると、日本の空き家数は900万戸を超え、住宅全体の約14%に達しています(2023年時点)。
問題は、「どうするか決めないまま放置する」という選択が、実は最もコストと手間のかかる選択だという点です。固定資産税・管理費用・劣化リスク・近隣トラブル――こうした負担は、時間が経つほど重くなります。
この記事では、空き家・実家をどう扱うかについて、活用・売却・賃貸・行政制度の利用という全方位の選択肢を、現役不動産エージェントの視点から整理します。
まず確認|空き家を持ち続けるとかかるコスト
選択肢を検討する前に、「何もしない場合」のコストを把握しておくことが大切です。
固定資産税・都市計画税
空き家であっても、所有している限り毎年課税されます。さらに注意が必要なのが、2024年の空き家対策特別措置法改正による税負担増のリスクです。
従来は「住宅用地の特例」により、住宅の建つ土地は固定資産税が最大1/6に軽減されていました。しかし、適切な管理がなされていないと判断された「特定空き家」や「管理不全空き家」に指定されると、この特例が外れ、税負担が最大6倍になる可能性があります。
管理・維持費用
人が住まない家は想像以上に傷みが早く進みます。雑草・害虫・雨漏り・腐食。最低限の維持管理(年数回の訪問清掃・庭の手入れなど)だけでも、年間数万〜十数万円のコストがかかるのが実態です。
近隣への影響と法的リスク
老朽化が進んだ空き家は、倒壊・火災・不法侵入などのリスクを生みます。近隣住民への損害が生じた場合、所有者として賠償責任を問われるケースも増えています。
選択肢1|売却する
最もシンプルな出口がこれです。管理の手間もコストも一切なくなり、売却代金を相続人で分配することも可能です。
仲介売却
不動産会社に依頼し、買い手を探してもらう一般的な方法。市場価格に近い金額での売却が期待できますが、売却までに数ヶ月〜1年以上かかることもあります。
複数社に査定を依頼し、価格だけでなく「その会社の実績と戦略」を見て選ぶことが重要です。
買取(不動産会社による直接買取)
不動産会社が自社で買い取る方法。価格は市場価格の6〜8割程度になりますが、売却のスピードが速く(最短数日〜数週間)、内覧対応も不要なため、手間をかけたくない方や遠方在住の方に向いています。
古い・傷んでいる・再建築不可などの「難しい物件」でも買い取ってもらいやすいのも特徴です。
空き家専門の買取サービス
近年は空き家・古家に特化した買取サービスも増えています。エリアによっては、通常の買取より好条件が出ることもあるため、一度見積もりを取ってみる価値があります。
ポイント: 売却前に「相続登記」が済んでいるか必ず確認を。2024年4月より相続登記が義務化されています。未登記のまま売却はできません。
選択肢2|賃貸に出す
売却せず、収益を生む資産として活用するのが賃貸です。固定資産税を賄いながら、毎月の家賃収入を得ることができます。
通常の賃貸(長期賃貸)
入居者を募集し、毎月家賃を得る最もスタンダードな方法。ただし、築年数が古い場合はリフォーム費用が先行投資として必要になることが多く、初期費用の回収まで時間がかかる点は注意が必要です。
管理は不動産会社に委託する「管理委託方式」が一般的で、家賃収入の5〜10%が手数料の目安です。
民泊・短期賃貸
観光エリアや交通の便が良い立地であれば、Airbnbなどを通じた民泊運営という選択肢もあります。稼働率が高ければ長期賃貸以上の収益になることも。
ただし、住宅宿泊事業法の届出、近隣への配慮、運営管理の手間など、クリアすべき事項が多い点は認識しておく必要があります。
空き家を「シェアハウス」や「コワーキングスペース」として活用
古民家をリノベしてシェアハウスや地域コワーキングに転換する事例も増えています。地方移住者や若い世代向けに需要が生まれているエリアでは、新しい活用の形として注目されています。
選択肢3|空き家バンクに登録する
空き家バンクとは、自治体が運営する空き家の売買・賃貸情報のマッチングサービスです。物件を登録することで、移住希望者や活用希望者に情報を公開してもらえます。
主な特徴
- 登録・掲載は無料(自治体によって異なる)
- 移住希望者・地方定住希望者のニーズとマッチしやすい
- 通常の不動産流通に乗りにくい「過疎エリアの物件」にも有効
活用のポイント
空き家バンクへの登録は、売却や賃貸の「入り口」として機能します。登録後は自治体や地域のコーディネーターが仲介に入るケースも多く、地域とのつながりを大切にしたい方にも向いています。
全国版ポータルとして「全国版空き家バンク」(国交省)もありますが、自治体ごとのバンクに直接問い合わせるのが実際には早い場合もあります。
選択肢4|自治体の支援制度を使う
空き家対策として、多くの自治体が補助金・助成金・相談窓口を設けています。費用負担を減らしながら活用・解体・売却を進められる制度が存在します。
代表的な支援制度
| 制度 | 内容 | 対象 |
|---|---|---|
| 空き家改修補助金 | 賃貸・活用のためのリフォーム費用を補助 | 賃貸・民泊・地域活用 |
| 解体費補助金 | 老朽化した空き家の解体費用を一部補助 | 危険な空き家の除却 |
| 空き家相談窓口 | 専門家(建築士・税理士・司法書士等)が無料相談 | 全般 |
| 移住促進補助 | 移住者向け空き家取得費用の補助 | 空き家バンク活用 |
制度の内容・金額は自治体によって大きく異なります。まずは物件が所在する市区町村の空き家担当窓口に問い合わせることをおすすめします。
選択肢5|寄付・相続土地国庫帰属制度を使う
「売れない・貸せない・管理もできない」という場合に、最後の手段として検討したいのがこの選択肢です。
自治体や法人への寄付
自治体がNPOや社会福祉法人などへの寄付を仲介してくれるケースがあります。ただし、自治体が受け入れる基準は厳しく、立地条件・建物の状態によっては断られることも少なくありません。
相続土地国庫帰属制度(2023年4月〜)
2023年4月にスタートした制度で、相続した土地を一定の要件のもとで国に引き取ってもらうことができます。
主な要件:
- 建物がない(更地であること)
- 担保権・使用収益権などが設定されていない
- 通路・ため池など他者が利用している土地でないこと
費用: 審査手数料(1万4,000円〜)+負担金(面積に応じて20万円程度〜)
古家が残っている場合は解体が必要になりますが、管理し続けるコストと比較した場合に有効な選択肢となるケースがあります。
相続・税金の基礎知識
相続登記の義務化(2024年4月〜)
2024年4月より、相続で取得した不動産は3年以内に登記申請することが義務となりました。正当な理由なく放置した場合、10万円以下の過料の対象になる可能性があります。
空き家を活用・売却する前提として、まず相続登記を完了させることが必須のステップです。
「3,000万円特別控除」の適用期限
相続した実家(空き家)を売却する際、一定の条件を満たすと譲渡所得から最大3,000万円を控除できる「空き家に係る譲渡所得の特別控除」が使えます。
主な条件:
- 1981年5月31日以前に建築された家屋
- 相続開始の直前まで被相続人が居住していた
- 相続から3年を経過する年の12月31日までに売却
適用要件は細かく、税理士への相談が推奨されます。
小規模宅地等の特例
相続税の申告において、自宅として使われていた土地は「小規模宅地等の特例」により、評価額を最大80%減額できます。ただし、特例を受けるためには相続後に一定期間その土地を所有し続ける条件がある場合もあり、売却タイミングとの兼ね合いで専門家への相談が重要です。
どの選択肢を選ぶべき? — 状況別の判断フロー
空き家・実家をどうするか迷ったら
├── 資産として残したい・収益化したい
│ ├── 立地が良い → 賃貸・民泊
│ └── 立地が悪い・過疎地 → 空き家バンク登録・シェアハウス化
│
├── 手放したい
│ ├── 早く・手間なく → 買取
│ └── できるだけ高く → 仲介売却
│
└── どうにもならない(売れない・貸せない)
├── 自治体制度を活用 → 解体補助金・相談窓口
└── 最終手段 → 国庫帰属制度・寄付
まとめ
空き家・実家の問題に「唯一の正解」はありません。立地・建物の状態・家族の事情・税務状況によって、最適な選択肢は変わります。
ただ、一つだけ確かなことがあります。「とりあえず置いておく」という選択が、時間とともにコストと選択肢の両方を削っていくということです。
まずは現状を整理するところから始めてみてください。不動産会社への無料査定依頼、自治体窓口への相談、税理士・司法書士への相談――どれも無料から始められます。
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この記事の情報は2026年3月時点のものです。税制・法律は改正される場合があります。個別の判断については、税理士・司法書士・不動産の専門家にご相談ください。


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